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2025.12.30

【REPORT】アトリエキノピオ "ペインター"という仕事

信州に工房を構えるアトリエ・キノピオから、安田氏と東松氏を迎え、自転車のペイントをテーマにしたトークイベントを開催しました。

ユーモアを交えながら語られる2人の話は軽快で、それでいて内容は濃いものでした。

予定していた終了時間はいつの間にか過ぎてしまい、イベントが終わったあともあちこちで小さな輪ができ、会話が続くような盛況ぶり。

ここでは、その一部を簡単にレポートとして残しておきます。

│アトリエキノピオの2人について

(写真右から安田氏、東松氏)

イベントはまず2人の自己紹介から始まりました。

2人の経歴は対照的です。

安田氏は大阪芸大の出身。その後、自転車づくりを学ぶため単身イタリアへ渡り、流れ着いた先は名門ZULLOの工房。フレーム制作を学びながら、ビルダー兼ペインターとして現地で経験を積んできました。
そして帰国後にアトリエ・キノピオを立ち上げた、自転車づくりとペイント、その両方を深く理解する本格派の職人です。

一方の東松氏は、工学部出身の元自動車部品メーカー勤務。いわば生粋のエンジニアです。
ところが、趣味であるMTBへの情熱が高じ、後にアトリエ・キノピオへ飛び込みで弟子入り。まったく異なる道から、いまは同じ場所で「自転車を塗る」仕事に向き合っています。

それぞれの異なる経験から業界に化学変化を起こし続けている彼らを見ていると、その出会いは必然だったのではないか、そんな印象を受ける2人です。

│"ペインター"という仕事

話題はいよいよ本題、ペインターとしての仕事について。

いくつかの作例をモニターに映しながら、どんなお題を受け、どうデザインを組み立て、どのようにペイントへ落とし込んでいくのか。
そして、実際の依頼がどのように進んでいくのかを解説してもらいました。

(写真で紹介されていたのは、国宝の陶磁器から着想を得たデザイン)

ここで、少し前提の話をしておきたいと思います。

そもそも塗装屋への依頼に「デザイン」が含まれることは、実はそれほど一般的ではありません。
オリジナルの塗装になればなるほど、曖昧なやり取りはトラブルの原因になります。色、配置、仕上げなどの仕様を依頼者側があらかじめ厳密に決めることが求められるのが普通です。

とはいえ、誰もがデザインをできるわけではなく、また構想はあってもそれを言葉や図で正確に伝えられるわけではありません。
結果として、カスタムペイントは「ハードルの高いもの」になってきました。

そんな"当たり前"を、キノピオの2人は少し違った捉え方をしています。

ここで安田氏が、こう語ってくれました。

「そもそも"ペインター"というのは本来、画家のようにデザインすることと描くことがセットになった仕事を指すことば。塗るだけじゃないんですよ。また、平面上でデザインを出来る人は大勢いますが、自転車を塗る手法や技術を理解した提案から塗装までをできる人はあまりいません。両方できることが僕らの強みなんです」

好きなもの、言葉、あるいは1枚の写真から。
それだけを投げかけても、キノピオのフィルターを通すことで、イメージは具体的な形を持ちはじめます。

イベントのテーマである
「カスタムペイントって、意外と身近?」
という問いは、彼らの存在があって初めて"身近なもの"だと感じられるものなのだと思います。

│作品を囲んでのフリートーク

後半は、イベントで解説された作品や過去に塗られた実際のフレームを見ながら、参加者が自由に質問できる時間に。

すっかり2人とその仕事に引き込まれた参加者は、思い思いの疑問を投げかけ、話に聞き入っていました。
自分が依頼することを想定した具体的な質問もあれば、素朴な興味から生まれたものもあり、そのどれにもいきいきと答える姿が印象的でした。

後日、東松氏からもらった感想ではこのように話していました。

「なかなか依頼者と直接お会いして自分の仕事の結果を感じれる機会がないので、こうしてお話できることはとてもモチベーションにつながりました。良い仕事ができているかなと自信にもなりますので、またぜひやりたいです。」

│イベントで公開されたENVE FRAY

この日に合わせてペイントしてもらったENVE FRAYもイベント内でお披露目されました。

お願いしたのは
「好きなカラー(ラベンダー)を主役に、特徴的なモチーフを加えたデザインにしたい」
というシンプルなリクエストです。

完成したフレームにはラベンダーを基調とした落ち着いた佇まいの中に、水圧転写による不規則なマーブル模様がアクセントとして加えられています。
彩度の高い色を重ねつつも、決して主張しすぎないバランスが絶妙です。

ロゴにはラベンダーと近い明度のメタリックを加えた塗料を使用。
光の当たり方で表情が変わる、さりげない変化の積み重ねがこのフレームの魅力を引き立てています。

決して派手ではありませんが、近づいて初めて細部の意匠に気づき、光を受けて複雑に表情を変える、そんな仕上がりです。

何よりも依頼者の理想を完全に実現してくれています。

このフレームは今後、スタッフがブルベやグラベルイベントなど、過酷な使い方をする予定です。

現在、店頭に展示していますのできれいなうちにぜひ一度、キノピオの仕事を間近でご覧ください。

│おわりに

今回のイベントは、募集開始から間もなく受付終了となり、大盛況のうちに終えることができました。

参加者はもちろんゲストにも楽しんでもらえる貴重な機会になり、関わってくださった皆さんに改めて感謝いたします。

.CANVASでは今後も皆さまに楽しんでいただけるイベントを企画していきます。
どうぞお気軽にご参加ください。